木漏れ日が差し込む。
12月には珍しく、今日は日差しが強かった。
夏の眩しい日差しとまではいかないが、それでも冬とは思えない程の日差しだった。
気温も比較的温かく、お昼休みは中庭でお弁当を広げられそうなのだけど、
この日差しの所為で殆どの生徒は教室やミルクホールなどの室内に避難している。
ただ、それでも幾つかのグループは外でランチを取っていて、わたくしもその中の1人。

わたくしがお弁当を広げているのは、講堂裏にある桜の木の根元。
周りをイチョウの木で囲まれているこの場所は、日差しが強くても木々の枝によって緩和される。
木々の枝は、まるで薄地のカーテンのように太陽からの眩しい日差しを緩めてくれるのだ。
おかげで眩しい日差しが一変。温かくて柔らかい光になって降り注いでくる。

「……んっ。温かい」

心地よい温かな温もり。
お弁当を食べてお腹がいっぱいになった所為で、その温もりが眠気を誘う。
木にもたれかかってその温もりを全身で浴びていると、誰かの優しさに包まれたようま安心感がある。
このまま瞳を閉じると、そのまま夢の世界へ旅立ってしまいそうだ。

「こら。こんな所で寝ると風邪引くわよ」

夢の世界へ旅立とうとするわたくしを呼び止める声。
聞き覚えのある、大好きな声。その声を発した人の顔を見る為、わたくしはゆっくりと瞳を開ける。
瞳を開けると、その声を発した人――わたくしの大切な人が、わたくしの事を見つめていた。
聖母マリア様のような優しく、穏やかな笑顔で。わたくしはその人の名前を呼ぶ。

「……咲耶ちゃ――じゃなかった、お姉さま」

その人の名前を呼んで、慌てて言い直す。
わたくし達が通うこの学校――リリアン女学院は、先輩の事を『さま』付けで呼ぶ。
そして特別親しくなりスールの契りを果たした場合は『お姉さま』だ。
わたくしと咲耶ちゃんは、わたくしが高等部に入学した4月の時点でスールの契りを果たした為、
慣わしに従って彼女の事を『お姉さま』と呼ばないといけないのだ。

「おはよう。鞠絵。
 気持ちよさそうなところ悪いけど、今の季節は風邪引くわ」

咲耶ちゃん――お姉さまは先程と変わらない笑顔のまま、
その綺麗な白い手でわたくしの頬を優しく撫でて、母親が子供に言い聞かせるような口調で言った。

「すみません。ついウトウトしてしまって」

「ふふっ。でも、その気持ち判るわ。
 ここって、ちょうどいい具合に日差しが遮られて温かいもの」

ニッコリと、お姉さまは笑う。

「でも、鞠絵。
 今は2人っきりなんだから、いつもみたいに『咲耶ちゃん』って呼べばいいのに」

「そう言われても、一応慣わしがあるので」

「ん〜〜、でもねぇ。
 『姉妹』としての関係より『幼馴染』としての関係の方が長いんだから、別にいいと思うけど」

わたくしとお姉さまは、ただのスールという関係ではなく幼馴染なのだ。
記憶にある限りでは、幼稚園ぐらいの時から一緒に遊んだりしていたから、
わたくし達2人がはじめて出会ったのは、本当に小さかった頃になる。
当然、小学校も中学校も同じ学校。家も近く、登校する時はお姉さまの家で待ち合わせ。
流石に学年が違う事もあって、あまり一緒に過ごせなかったけど、それでも可能な限り一緒にいた。
わたくしはお姉さま――咲耶ちゃんの事が大好きで、本当の姉のように慕っていた。
ただ、これはお姉さまの心を無視した、わたくしの身勝手な想いだ。
お姉さまが、わたくしの事をどう想っているのか、わたくしは知らない。
ただの幼馴染なのか、リリアン特有の慣わしに則ったスールという関係なのか。それとも――

「それに由乃さんもプライベートだと黄薔薇さまの事を『令ちゃん』って呼んでいるし」

「それは、おふたりは従姉妹同士ですから」

生徒会長である三薔薇さまの1人、黄薔薇さまの支倉令さまと、
その妹の島津由乃さまが従姉妹同士だというのは学園でも有名な話。
とても仲がよくて、お姉さまに聞いた話だと去年はベストスール賞に選ばれたそうだ。
そしてこれはあまり知られていない――由乃さまのクラスの方は殆ど知っているみたいだけど、
由乃さまはプライベートや親しい人の前だと、令さまの事を『令ちゃん』と呼んでいるのだ。

「なら、私達は本当の姉妹みたいなものでしょ?
 ずっと昔から一緒にいるんだし。私は、鞠絵の事を本当の妹みたいに想っているわ」

例え血の繋がりはなくても。寧ろ、絆に血なんて関係ない。
お互いに求め合っているのなら、お互いに想い合っているのなら、それは『血』以上の絆になる。
求め合えば求め合う程、想い合えば想い合う程、絆は強くなる。お姉さまは続けてそう言った。

「……お姉さま」

鼓動が早くなるのが判る。
津波のように押し寄せてくる感情が、わたくしの中に広がっていくのが判る。
この感情は―――そう『喜び』だ。

「わたくしも、同じです。
 わたくしも、お姉さまの事を本当の姉のように想っています」

お姉さまの言葉に、わたくしは自分の本音を伝える。
偽りのない、わたくしの心。『血』の繋がりを超えた絆を求める言葉を。

「そう。それじゃ、私達は両想いね♪」

言って、お姉さまは手を差し伸べる。
白くて細い、綺麗な手。わたくしは、その手をそっと取る。

「それじゃ、時間もないし戻りましょうか、鞠絵」

「はい。咲耶ちゃん♪」






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