キーンコーンカーンコーン


チャイムが学校中に響く。
それは同時に、今日の授業が全て終わった事を意味します。

「あ、授業も終わりね♪
 それじゃ、今日はここまで〜♪」

6時間目の英語の授業を担当する外国人講師、アルク先生が教室から出て行く。
出て行く時、嬉しそうだったのは、授業中に話していたデートが待っているからだと思う。
確か、相手は国語の授業を担当する遠野先生。この2人の仲は学校で知らない人はいない。
それは生徒や先生、事務職の人だって知っていて、皆2人の仲を応援している。
反対しているのも一部の先生ぐらいで、その数は10人にも満たない。

「はい。ホームルームはじめますよ。皆さん、席に着いて下さい」

わたくし達の担任の先生がそう言って、ホームルームがはじまる。
担任の知得留先生が明日の予定などを話しているけど、殆どの生徒は聞いていません。
皆、放課後をどういう風に過ごそうか考えているのだと思います。
だって、わたくしもその中の1人ですから。

「はい。連絡事項は以上です。
 では皆さん、わたしはちょ〜〜っと用事があるので先に帰ります。では」

額に青筋を立てて知得留先生がピシャンッ、と勢いよく扉を閉める。
同時に廊下からドタドタという走る音や「あのアーパー吸血鬼がぁーーッ」なんて叫び声が聞こえます。

「そういえば……知得留先生も反対派でしたね」

そんなを呟きながら、わたくしは帰る準備をしていく。
今日の放課後は、特に何かして過ごしたいというものがない。
部活にも入っていないし、何か習い事をしている訳でもないから、わたくしはこの後予定がない。
家に帰って本を読んでもいいけど、家にある本は全部読んでしまった。
今読んでいる小説の新刊の発売日は今月の25日でまだ先だし。

「ま〜りえ♪」

「きゃッ!?」

考え事をしていると、急に誰かに抱きつかれた。
思わず悲鳴を上げてしまったけど、冷静に考えてみたらわたくしにこうする人は1人しかいない。
わたくしは振り向いて、その人の名前を呼ぶ。

「さ、咲耶ちゃん」

わたくしに抱きついてきたのはクラスメイトの咲耶ちゃん。
咲耶ちゃんとは小学校の頃からの幼馴染で、わたくしの1番の親友。
亜麻色のロングヘアーを靡かせて、整った顔立ちでわたくしを見つめている。

「もう。いきなり抱きつかないで下さい」

「ゴメンゴメン、鞠絵。
 でもね、鞠絵って抱き心地よくて。私のお気に入りなの♪」

言って、咲耶ちゃんはギュッとわたくしの身体を抱きしめる。
一応謝ってはいるのだけど、わたくしに抱きつく行為は絶対にやめない。
咲耶ちゃんがわたくしに抱きつくのは、もうずっとずっと昔から。
その原因は実はわたくしにあって、小学校の頃のわたくしは男の子からの悪戯にあっていた。
大体はスカート捲りや水鉄砲で撃ってきたり、後メガネを取られたりとかいったものが多く、
今となっては男の子が気になる女の子に対してする一種の愛情表現みないなものだと思えるけど、
子供の頃のわたくしにそんな事が判る訳もなくて、泣いてばかりいた。
その時、慰めてくれた――後、男の子への仕返しをした――のが咲耶ちゃんで、
泣いているわたくしを今みたいに抱きしめてくれた。
咲耶ちゃんに抱きしめられると、温かくてなんだか安らぐ感じがあって、自然と涙も止まっていく。
そんな事もあって、小学校の頃はよく咲耶ちゃんだ抱きしめられていたのだけど、
中学高校はわたくしが泣いているから、ではなく咲耶ちゃんが抱きしめたいから、に理由が変わっている。

「もう。咲耶ちゃんったら。それで、何か用ですか?」

最初の頃は泣いてもいないのに抱きしめられて、わたくしや周りの人を驚かせていた。
でも、流石に何年も続くとわたくしも周りの人も慣れてしまう。
だから周りの人は特に驚いていないし、わたくしも平然としていられる。

「あ、そうそう。鞠絵って、この後暇?」

「いいえ。特に予定はありませんが」

「そ♪ それじゃあ、これからアーネンエルベ行かない?
 あそこのストロベリーパイが美味しいって晶が言っていたの」

『アーネンエルベ』は、大通りの映画館の横にある喫茶店。
最近出来たお店で、マスターがイタリア料理の達人という噂がある。
わたくしはまだ行った事がないけど、行った事のあるクラスメイトの評価は高かった。

「えぇ。いいですよ。わたくしも一度行ってみたかったんです」

「よし♪ それじゃ、行きましょうか♪」

咲耶ちゃんはわたくしから離れて、手を差し伸べる。
白くて細い、綺麗な手。わたくしは、その手をそっと取る。

「はい。咲耶ちゃん♪」






戻る 次へ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送