ゆっくりと、目が覚める。
それは望まない覚醒。眠り続けたいわたくしの願いを裏切るもの。
幸せな夢の世界を捨てさせ、辛く悲しい現の世界へと戻らせようとする。
目を開けたくなかった。夢から覚めたくなかった。幸せを手放したくなかった。
ずっとずっと、わたくしが望むわたくしだけの夢の世界にいたかった。
例えそれが現実逃避だと言われても、わたくしはこの現実の世界にいたくなかった。

でも、わたくしがどんなに望んでもは所詮、夢は夢。
身体も一定の睡眠時間をとれば、わたくしの意思とは関係なく覚醒する。
薬に頼ったところで、その効果はあまり期待出来ないし、ここは病院だ。
そう簡単に睡眠薬の飲用を許される訳もないし、許されても量が制限される。
それに結局は、効果が切れて目が覚める瞬間がある。
いつまでも夢を見続けていたいが、永遠に見続けるなんて不可能なのだ。
永遠は存在しないのだから。必ず終わりがあるのだから。

「鞠絵ちゃん。朝よ、起きて」

わたくしを呼ぶ声がする。
それはまるで、わたくしが夢で体験したように。
ただ、その声の主が咲耶――姉上様か、わたくしの担当である倉田百合子さんかの違いはある。
コレがまだ夢の世界――わたくしが監督を務める『夢』という名の映画の中にいるのなら、
主演である姉上様の役がまた違ったものになって、わたくしを起こしに来ただろうけど。
生憎と、コレは現だ。わたくしが望まない悪夢という名の現。

「……んっ」

ゆっくりと、目を開ける。
わたくしは覚醒を望まない。だから目を閉じたまま時が過ぎるのを待つのもいい。
そのまま時が過ぎるのを待っていると、その内眠りにつく事が――また夢の世界へ行けるから。
でも、百合子さんが起こしにきた以上、そのまま狸寝入りを通すのも難しい。
彼女はもう何年もお世話になっている百合子さんだから、狸寝入りが通用しない。
何より、何年もお世話になっている人に、あまり迷惑をかけたくないという思いもある。

「おはよう。鞠絵ちゃん」

目を開けると、百合子さんの笑顔があった。
わたくしはその笑顔に対し『おはようございます』と返して、少しダルさのある身体を起こす。
幸せな夢が終わり、悪夢のような現のはじまり。また1日、わたくしの限られた時間が減っていく。







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